書評『ずる』
ずる―嘘とごまかしの行動経済学 (ハヤカワ・ノンフィクション)
- 作者: ダンアリエリー,Dan Ariely,櫻井祐子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/12/07
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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行動経済学の第一人者ダン・アリエリーの『予想どおりに不合理』『不合理だからすべてがうまくいく』に続く3作目です。
今回は、「人間はなぜ不正をはたらくのか?」をテーマにしています。
巨額の不正経理で破綻したエンロンに関わっていたコンサルタントに著者が出会い、その時にコンサルタントが「当時は不正を働いていた雰囲気はなかった」という言葉に興味を持って書いたと言います。
エンロンの不正は、幹部数名が行った訳ではない。会社にいる多くの人が小さな不正を積み重ねて、やがて破綻したのだと。私たちは誰でも小さなごまかしをする。
私たちの行動は、2つの相反する動機づけによって駆り立てられている。私たちは一方では、自分を正直で立派な人物だと思いたい。だがその一方では、ごまかしから利益を得て、できるだけ得をしたい。
この2つの矛盾する事を解決するために人間はどういった思考をするのかを数々の実験で表していきます。
なお、不正を解決するには、どうすれば良いのか?
いくつかの方法が提示されていますが、最も効果的なのが、道徳心を呼び起こすものだそうです。倫理基準、聖書、誓約書、署名など。相手に不正をすることが、自分の人格を傷つけると思わせる。
人はみな自分を良く見せたい。
前作に比べて、テーマが一つに絞られているために、驚きは少なく、ややくどい感じはありますが、よくできた作品だと思います。
書評『世界の経営学者はいま何を考えているのか』
世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア
- 作者: 入山章栄
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2012/11/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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海外のビジネススクールにおける経営学者たちが何を研究しているのか。競争戦略、イノベーション、組織学習、M&A、国際起業といった幅広い経営学の最新トピックを簡単に紹介している本です。
本にはある程度、新しい発見がないと面白くないと思います。
そういう意味では、この本は知らなかった事が結構盛り込まれているので、普段から経営書を読んでいる人も楽しめると思います。
さて、世界の経営学者はいま何を考えているのか?
この本は、総論と11の各論から成り立っています。ので、中から面白かった部分をいくつか紹介します。
①ポーターの競争戦略だけではもう通用しない
マイケル・ポーターの競争戦略と言えば、競争戦略の古典です。その要点は、企業が持続的な競争優位を確立するためには、差別化によって、ユニークなポジションを取らねばならないというものです。
しかし、最近の研究では、アメリカ企業の中で持続的な競争優位を確立できているのは2〜5%に過ぎないというのです。近年は、競争の激化により、競争優位を維持できる期間が短くなってきていると。さらには、競争優位を失った企業が、再度競争優位を獲得する事例も増加してきているとか。
つまり、競争が激化している昨今の環境では、競争優位とは一時的なものであり、それを鎖のようにつなげる事で、企業は長期間にわたって高い業績を得るそうです。そして、競争優位を得るにあたって、企業は積極的な攻めの競争行動をする事で高い市場シェアをとることができるそうです。
今はポーターの頃とは、環境が違うという事なんでしょうね。
②イノベーションのジレンマは古い?
最先端のイノベーション研究では、イノベーションのジレンマよりも「両利きの経営」というものが注目されているそうです。両利きの経営とは、右手と左手を両方使えるように企業は、知の探索と知の深化の両方をバランスよく実行する事が必要だと説き、そのような環境を組織に構築しなければならないというものです。
イノベーションのジレンマと同じように、イノベーション停滞のリスクを論じているものの、両利きの経営では、それを組織に内在するリスクとして捉えているのが異なる点です。イノベーションのジレンマは、どちらかというと経営者が、成功事例からイノベーションの可能性を探索する事を見落とすというものです。
こうした一歩先の研究が紹介されていますので、この分野に興味のある人にはオススメです。知的好奇心をくすぐられます。
ただ一点、注文を付けるとすれば、後半になるに従って、各論がしょぼい点。グラノベッターの「弱い結びつきの強さ」あたりから、知ってる内容が増えていき、まあそうだろうなという当たり前に思えるような事が論じられていたりします。
この本は2009年から書き始められたらしいです。そして著者の初めての作品。
やはり、初めて出版される本は、気合いが入っているというか、いい本が多いように思います。
書評『銀行が超!衰退産業になったワケ』
- 作者: 永野良佑
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2012/07/21
- メディア: 単行本
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全くサプライズもなく、当たり前の銀行批判がひたすら綴られているので、退屈でした。銀行のことを知らない人だと、少しは面白いのかな。
乱暴にまとめますと、
銀行の存在意義は、個人からお金を集めて、それを産業振興のために企業に貸し出すことだ。しかし、銀行は大企業の融資ばかりで、リスクを全然取ってない。しかも、お金のある大企業に貸しても高い利息取れねーだろ。
といって、中小企業に融資するノウハウもない。銀行なんて、誰でもできる仕事だ。にもかかわらず、プライドだけが高くて、給料も高い。何様だばかやろー。
最近は儲からないから、手数料商売に走って、全くリスクも取らない。投資信託の販売、保険の販売。そんなもの銀行がやる必要ないだろ!しかも、個人相手に、説明もできないリスク商品を売ってるんじゃねー。
極めつけは、国債の大量保有。お金を必要としている先はたくさんあるのに、リスク管理もできないから、国債ばっかり買ってやがる。そんな事、銀行でなくてもできるんだよ。国債買って安全だと思ってると、デフォルトのリスクがあるんだぞ。馬鹿め!リスクを回避しているようで、実は多大なリスクを取ってるんだよ。
優秀な金融マンはこれからファンド目指そうぜ。
という事が書かれております。
著者は金融アナリストなのですが、こんなに批判しまくってお仕事大丈夫でしょうかね。
書評『企業参謀ノート』
- 作者: 大前研一,プレジデント書籍編集部
- 出版社/メーカー: プレジデント社
- 発売日: 2012/07/28
- メディア: 単行本
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大前研一さんがマッキンゼーのコンサルタント時代に書いた『企業参謀』をリメイクしたものです。
こんなの邪道だろうと思って、これまで手に取らなかったのですが、わかりやすくて良いです。超訳と図解によって、ずいぶんとコンパクトに内容がまとめられているのですが、こういった再編集の仕方はありだなと思いました。
改めて、企業参謀の核となる戦略的思考のポイント5つを取り上げます。
①完全主義を捨てよ → 決断できない原因となる
②「もし〜だったら、どうするの?」と考えよ → ゼロから考える
③「何ができないか」を考える前に「何ができるか?」を考えよ →制約条件を考えない
④記憶力に頼らず、分析力に頼れ → 制約条件を打破する
⑤KFS(成功のカギ)を見つけよ → 物事の優先順位をつけられる
単純明快で非常にわかりやすいです。
確かに普段意識していないと、前例を探してしまったり、常識的に考えて、はじめから無理だという枠にはまった発想をしてしまいがちです。
企業参謀の復習にもオススメです。
書評『アップル、グーグル、マイクロソフト 仁義なきIT興亡史』
- 作者: チャールズ・アーサー,林れい
- 出版社/メーカー: 成甲書房
- 発売日: 2012/10/23
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タイトルが冴えない。
もう少しタイトルを考えれば、売れたであろうに。
マイクロソフト、グーグル、アップルの3社の戦いを「検索エンジン」「デジタル音楽」「スマートフォン」「タブレット端末」の項目で取り上げ、その歴史を淡々と語っている本です。
正直なところ、アップルについては数々の本で語られているので、もう十分といった感じですが、グーグルの部分は面白かったです。
グーグルが当初、マイクロソフトを警戒して、なるべく目立たないようにしていた事。一方のマイクロソフトは、検索分野には全然注目しておらず、気が付いた時にはグーグルが不動の地位を得ていた。
そこからマイクロソフトは、新しい検索エンジン、現在のBingを開発するのですが、致命的なミスを犯しているのです。1つが、オーバーチュアを買収する事をバルマーが反対した事。検索表示されるキーワードにクリック課金する広告モデルを見逃してしまったのです。当時、バルマーはオーバーチュアが広告主を持っているという価値に気が付かなかったそうです。
そして2つ目のミス。それがリンクエクスチェンジを過去に買収しており、キーワード広告という事業を持っていたにも関わらず、それを廃止してしまっていたこと。当時、キーワード広告は、MSNの純広告と対立するものとして、部署間の争いで廃止になってしまたっといいます。ちなみにリンクエクスチェンジという会社は、ザッポスCEOのトニー・シェイが共同創業した会社でもあります。
この2つのミスにより、マイクロソフトは検索、広告の2つを一から開発することになり、失敗する。当時は、グーグルなど第2のネットスケープだという過信もあったようです。
しかし、結果はご存知の通り。Bingはとても成功したとは言えず。敗因の要因は、グーグルに対し、人々は特段の不満をもっていなかったと事を挙げています。
400ページあり、かなり読み応えがあります。
知っている事がほとんどではありますが、IT関連の歴史書として、この分野が好きな人にはオススメです。
14年前、スティーブ・ジョブズは、マイケル・デルに「将来性がないからたたむべきだ」と言い捨てられたそうですが、世の中はわからないものです。経営者の資質、運、努力、いろんな要素があって事業の成否は決まる。
そのデルは、台湾メーカーのASUSに、アウトソーシングする事で、競争力を失ったという話も面白いです。はじめはマザーボードの外注だけだった。これは、デルにとっても、資産を減らし、財務指標を改善する効果があり喜ばしい事だった。しかし、ASUSがうまかったのは、これだけで終わらなかったこと。
デルは、ASUSにパソコン全体の組立て、やがてはサプライチェーン管理、コンピュータの設計までアウトソーシングした。デルの財務指標は良くなったが、手元に残ったのは、デルというブランドだけだった。
ASUSが満を持して発表したのは、自社ブランドのパソコンの製造事業であった。デルは台湾メーカーのパソコンにデルという名前を貼付けるだけの会社に成り下がってしまったのだ。
ちょっと、長々と書いてしまいました。
デルのお話は、この本では書かれていないのですが、スマートフォン戦争におけるマイクロソフト、アップル、グーグルのそれぞれの戦いなど、なるほどと思わせる内容でした。
書評『新幹線お掃除の天使たち』
新幹線お掃除の天使たち 「世界一の現場力」はどう生まれたか?
- 作者: 遠藤功
- 出版社/メーカー: あさ出版
- 発売日: 2012/08/28
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新幹線の清掃を行う人たちについて書かれた本です。
これJR東日本の子会社のお話で、東北新幹線と上越新幹線が対象なんですよね。
挨拶がきびきび、掃除がてきぱきと評判らしいのですが、東海道新幹線以外、ほとんど利用したことないので、見たことありません。
だから、人気だと言われても、ちょっと想像しにくいのですが。
この清掃を行う会社の鉄道整備株式会社、通称「テッセイ」は、7年前までは普通の清掃会社だったそうです。そこに現専務取締役の方が入社されて、現場のスタッフの意識を変え、まるで別の会社に改革したのだそうです。
読んでいると、ちょっとディズニーを思い起こさせます。
この本では、その清掃で活躍する人たちの心温まるエピソードと7年間かけてお掃除の天使たちが生まれるまでの2つの内容が綴られています。
特に興味を持ったのが、後者のどのように会社を改革していったかというところ。
これまで行った施策を順に列挙します。
①取り組むべきテーマを設定した
②目指すべきサービスを実践する「モデル」をつくった
③現場の環境整備を行い、本気度を示した
④組織を再編し、縄張り意識を解消した
⑤社内イベントを実施し、一体感を高めた
⑥人事制度を変え、やる気のあるパート社員を正社員採用した
⑦テーマを明確化し、それを具体化するための委員会を設置した
⑧小集団活動、提案活動を活発化させた
⑨褒める仕組みを導入した
⑩現場への大幅な権限委譲を行った
目的の明確化は大事ですね。
褒めてモチベーションを高めるのも大事ですね。
現場に権限委譲して、自主性を育て、会社の文化を創る。大事ですね。
何が凄いって、この専務の経営力なんじゃないかなと思いました。
JRという半分役所のような会社(たぶん)で、これまで普通の清掃会社を凄いモチベーションの高い会社に変えてしまった訳ですよ。
本書の締めくくりとして、どんな普通の会社でも素晴らしい会社に生まれ変わることができると書いているのですが、やっぱりこれは卓越したリーダーあってこそだなと思いました。
書評『イノベーション・オブ・ライフ』
イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ
『イノベーションのジレンマ』で有名なクレイトン・クリステンセンの最新作です。
知らなかったのですが、クリステンセン教授は、リンパ腫というガンに似た病気なのだそうです。
そして、ハーバード・ビジネススクールでの最後の講義をまとめたものが本書。
企業の戦略理論を事例で説明しながら、人生におけるキャリアや人間関係に役立つツールとして、それを紹介しています。経営戦略と自己啓発が一緒になったというユニークな本ですが、かなり完成度が高いです。
主なメッセージは、次のようなものです。
・仕事は金銭的報酬では動機づけられない。内的な動機づけをされる仕事が見つかるまで、試行錯誤して機会を探し続けよ。
・人生の戦略は実行しなければ意味がない。自分のリソースの資源配分が最適かどうかを確認せよ。
・家族や友人のために時間を投資しなさい。
・家族が求めるニーズを把握して、それに対応しなさい。
・子供にはきちんと意思を伝えて、教育すること。
こうしたメッセージのための基礎理論として、経営戦略論を事例で紹介しているのが面白いです。
特に「破壊的イノベーション論」をネットフリックスとブロックバスターを事例に紹介し、これは人にもあてはまるというメッセージにはしびれました。
既存事業、つまり目先の環境での限界費用(採算)だけを分析して、新規事業、将来への投資を怠ると、競争力を失い、将来大きな代償を払うことになると。
改めてこの理論の凄さがわかりました。
第10講の15ページほどを立ち読みして、面白いと思った人にはオススメです。
なお、子育てをしている方に是非読んでもらいたいところがありました。
生後2年半までの子供に、親の語りかけが影響する研究をした。
親は一時間に平均1500語の言葉を幼児に語りかける。
また「おしゃべりな親」(大学出が多かった)が、平均2100語を語りかけたのに対し、言語環境の貧しい親(低学歴の人が多かった)は、一時間に平均600語しか語りかけなかった。
生後30ヶ月間の合計で見ると、「おしゃべりな親」の子供は、平均4800万語を語りかけられたが、不利な環境で育った子供は、わずか1300万語しか語りかけられなかった。
研究によれば、子供が言葉に触れるべき最も重要な時期は、生後1年間だという。
子供たちに語りかけられた言葉の数は、彼らが30ヶ月間に聞いた言葉の数とも、成長してからの語彙と読解力の試験の成績とも、強い相関があった。
また、親が子供に語りかける方法が重大な影響を及ぼす。子供と面と向かって会話し、大人と全く同じ、知的な言葉を使って、まるで子供が話し好きな大人たちの会話に加わっているかのように話かけた時、認知発達に計り知れない大きな影響があった。
「今日は青いシャツを着る、それとも赤いシャツにしましょうか?」「今日は雨が降るかしらね?」「ママったら、前にあなたの哺乳瓶を間違ってオーブンに入れちゃったときがあったわね」という具合だ。
つまり、子供に身の回りで起きていることを深く考えさせるような質問だ。このような問いかけは、子供がそれを理解できるようになるはるか前から、計り知れない大きな影響を及ぼすのだ。
親が余計なおしゃべりをする時、子供の脳内で膨大な数のシナプス経路が活性化され、精緻化される。シナプスの経路がたくさん作られるほど、つながりがますます効率的に形成され、おかげで思考パターンがより容易により早く形成される。
生後3年間で4800万語を聞いた子供は、1300万語しか聞かなかった子供に比べて、脳内になめらかなつながりが3.7倍あるだけでない。脳細胞への影響は、それよりずっと大きいのだ。
この研究は、子供の認知的優位性のカギが、収入や民族性、親の学歴などにあるのではないことを示している。
最高の人生を生きたい人には、武器となる本です。