書評『リバース・イノベーション』
![リバース・イノベーション リバース・イノベーション](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51zVvHJcRnL._SL160_.jpg)
- 作者: ビジャイ・ゴビンダラジャン,クリス・トリンブル,小林喜一郎(解説),渡部典子
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2012/09/28
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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リバース・イノベーションとは、途上国で最初に採用されたイノベーションが、富裕国に逆流していくイノベーションのことを指す。
通常、イノベーションとは富裕国から始まり、途上国に流れていくものであるが、時々途上国発のイノベーションがあると説く。
例えば、米国の栄養ドリンク『ゲータレード』。これは、元々、コレラ患者の引き起こす下痢症状に対する民間療法として、ココナッツやにんじんの絞り汁、米のとぎ汁などの飲料を飲ませることから発想を得たという。当時の西洋医学では、下痢に苦しむ患者に胃に炭水化物を入れると、コレラ菌が増殖すると考えられていた。この民間療法に目をつけた医師が、フットボール選手の水分補給にと開発したのが、ゲータレードだ。
かつては、事例の少なかったリバース・イノベーションも、近年では様々な形で現れており、その事例が多く掲載されている。
この本では、リバース・イノベーションを無視すると、多国籍企業は新たな機会を失うだけでなく、手痛い目にあう可能性があると警告する。
途上国で最適化されたイノベーションは、やがて技術の進歩と共に、性能面などで、富裕国向けの製品と遜色ないレベルになる。50%のソリューションは、ほんの2、3年で90%のソリューションになるかもしれない。
ネットブックが良い例で、これはかつて途上国向けにいかに安価にパソコンが作れるかというところから作られたものだ。今では、ネットブックは富裕国においても、一定の市場を得ている。
富裕国と途上国には、5つのニーズのギャップが存在する。
①性能、②インフラ、③持続可能性、④規則、⑤好み
このギャップに対応するには、企業は富裕国の成功事例を忘れて、一から始めねばならないと説く。そう、初めて火星に降り立った時のように行動するのだ。
多くの企業は、富裕国向けの製品をカスタマイズし、機能を削ぎ、廉価版の製品を途上国で売る。しかし、この方法では、超低価格なソリューションといった途上国のニーズを満たすには、限界がある。だからこそ、企業は一から始める必要があると。
近年、BOPの関する書籍をよく見かけるが、やはりグローバル企業において、今一番の関心事項なのであろう。
ビジネスとは、本来そこにあるニーズを満たす製品、サービスを提供することにある。先進国では、すでに多くのニーズが満たされ、新たなニーズを探すことは難しいが、途上国には、多くのニーズが転がっている。ただ、そのニーズを満たすだけの採算性がないかに見えるだけだ。
1000円を出す人が1人いるという発想から、100円を出す人が10人いるという発想に転換しなければならないとあるが、まさにそのマインドセットを転換しなければならない時期が来ている。
途上国が今の富裕国がかつて発展してきた道筋を辿るとは、限らないという言葉が印象的だ。貧困国は、富裕国が数十年前に似たようなニーズに対処した際には、まだ利用できなかった最新技術を用いて、自分達の課題に取り組めるという、相対的に恵まれた状況にある。
どうやら、GEやP&Gなど多くのグローバル企業のエグゼクティブがこの本を読んでいるようだ。日本企業もいち早く、リバース・イノベーションの発想に辿りつかねばならない。
そして、グローバルに対応するために、日本人もまた、ローカライズしていく気概を持たなければ、この先の時代には生き残れない。