本とぽんず

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書評『ソーシャルエコノミー』

ソーシャルエコノミー 和をしかける経済

ソーシャルエコノミー 和をしかける経済

 

地味に良い本でした。マーケティングに興味がない人が読むと退屈かもしれませんが、こういう装丁もぱっとしない本にこそ、結構面白い内容がつまっている。

 

AKB48初音ミク富士宮やきそばを事例にしながら、ユーザー参加型で盛り上がって、消費するという経済が、今後ますます増えていくという内容です。

 

この本の新しい視点は、日本の文化的背景を考察した上で、現在のコミュニティの形成を過程を分析している点です。

 

日本のコミュニティの原点は、「ムラ」にある。集落が人の集まりの原型だった。やがて文明が発達して、都市ができた。

 

ムラは、そこにいれば安心で一体感や所属意識、絆が感じられるが、しがらみが多く疲れた。閉塞感もあった。一方、都市は自由で開放的なものの、人間関係は希薄。孤独感がつきまとっていた。

 

ムラは抜け出したいものだった。ムラから都市へ人が移動し、ムラが少なくなってくると、今度は逆に「あの頃は良かった」と再評価が始まる。ヨーロッパでは1920年代、国全体に占める農村部の人口が4割を切り始めたあたりから、「コミュニティが重要だ」と言われはじめたらしい。日本では1950〜1960年代にかけて農村人口が4割を切り、やはりこの頃から、コミュニティという言葉が頻発するようになる。

 

高度経済成長期には、都市部のコミュニティは会社が担った。しかし、1990年代に入り、経済成長が低迷し、終身雇用制がほころび始めると、人々は地縁コミュニティに代わる新たなつながりを求めて、様々なコミュニティづくりが試みられた。

 

この流れがソーシャルにつながると。ソーシャルはムラ的でもあり、都市的でもある。参加するのも辞めるのも自由。興味のあることだけでつながることができる。

 

最近ではFacebookを通じた、勉強会やセミナーなどのコミュニティも活発であり、AKB48に代表される趣味や娯楽のコミュニティも盛んだ。みんな「つながり」を求めているのは、旧来のコミュニティが崩壊してしまったからなのだろう。

 

本書では、そんなソーシャルなコミュニティの作り方がテーマとなっている。

その方法は、

 

①まず「共益のネタ」を放つ

②「同好コミュニティ」活性化のため、「宴」を催し続ける

③「和」が生まれたら、「祭りのハタ」を掲げ、「同好リーグ」化を導く

④祭りの後に「裾野ソサエティ」を広め、ソーシャルエコノミーの発動を促す

 

 

多くの同好コミュニティができるが、そのほとんどは消えていく。人は飽きっぽく移り気だ。では、どのようにして消えないコミュニティを作るのか?

 

その鍵となるのが「祭り」だという。

 

日本人が伝統的に大切にしてきた生活サイクルに「ハレとケ」という言葉がある。「ケ」が日常を表す言葉で、「ハレ」は儀礼や祭りといった非日常を意味する。

 

コミュニティは、日常のつながりだけでは、やがて消えていく。コミュニティを維持し、発展させるには、メンバー共通の目的を持ち、帰属意識を高めなければならない。その役割を果たすのが「祭り」ということだ。

 

日本サッカーも代表試合に時に、驚異的な盛り上がりを見せる。AKB48も第一回総選挙後に急成長した。富士宮やきそばもB1グランプリから、さらなる盛り上がりをみせた。

 

「祭り」が用意されていないコミュニティは、単なる仲良しコミュニティで終わり、やがて消えていく。

 

「祭り」を用意するには、運営が困難なため、企業の関与が不可欠だという。この本の著者は、電通のプランナーだ。そう、この本のメッセージの裏には、「電通を使いなさい」という意図がこめられている。AKB48のプロモーションも、秋元康氏が電通と組んでヒットさせたという話もある。

 

とまあ、電通うんぬんは別として、現在のソーシャルメディアを理解する上で参考になる1冊でした。

要約:ソーシャルエコノミー